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東京高等裁判所 平成10年(ラ)1044号 決定 1998年7月06日

静岡県磐田郡豊田町宮之一色三四二―一

抗告人

齋藤俊雄

右代理人弁護士

森下文雄

石田亨

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

相手方

右代表者法務大臣

下稲葉耕吉

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙「即時抗告の申立」写し記載のとおりである。

二  当裁判所も、抗告人らが提出を求める文書は、税務調査の担当係官が抗告人のした相続税申告の当否を調査する過程で専ら自己使用に供するために収集又は作成したものであって、民訴法二二〇条三号後段の文書に該当せず、また、同条一号の文書にも該当しないから本件文書提出命令の申立ては却下すべきであると判断するが、その理由は原決定の説示するとおりであるから、これを引用する。

なお、抗告人は、本件文書が租税法律関係の生成の過程において、相続税法六〇条による質問検査権の行使によって収集、作成された文書であるから、単なる自己使用文書に止まるものではない旨を主張するが、文書が法律の規定に基づいて収集されたとしても、そのことから当該文書が直ちに法律関係文書であることにはならない。

三  よって、抗告人らの本件文書提出命令の申立てを却下した原決定は相当であり、本件抗告は理由がないから棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 大島崇志 裁判官 寺尾洋 裁判官 豊田建夫)

即時抗告の申立

〒四三八―〇八一六 静岡県磐田郡豊田町宮之一色三四二―一

即時抗告人(本案原告) 齋藤俊雄

〒四三二―八〇二三 静岡県浜松市鴨江四丁目一〇番二二号

右代理人弁護士 森下文雄

〒四三二―八〇二三 静岡県浜松市鴨江四丁目九番一二号

同 石田享

〒一〇〇―〇〇一三 東京都千代田区霞ヶ関一―一―一

相手方(本案被告) 国

右代表者法務大臣 下稲葉耕吉

右即時抗告人を原告、相手方を被告とする、静岡地方裁判所浜松支部平成八年(ワ)第四五九号損害賠償請求事件において、即時抗告人から申立てた文書提出命令の申立(同裁判所同支部平成九年(モ)第二一二号)に対し、同裁判所同支部は、平成一〇年四月一七日、文書提出命令の申立を却下する旨の決定をなし、右決定は、同月二三日、即時抗告人代理人に送達されたが、不服であるから即時抗告を申立てる。

即時抗告の趣旨

原決定を取消す。

との裁判を求める。

即時抗告の理由

一、原決定は、民事訴訟法第二二〇条三号後段の「挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成された文書」とは、法律関係に関連のある事項を記載した文書を含むとしながらも、本件文書が「税務調査の担当係官がその職務を遂行する課程で、専ら自己使用のために収集作成した内部文書」であるから、本件文書は、法律関係文書にあたらないと判断している。

二、しかし、本件文書は、単なる自己使用に止まる文書ではないから、原決定は誤っている。

(一) すなわち、磐田税務署税務職員が、納税者である即時抗告人(原告)らの相続税の申告書(甲代一号証、乙第五号証)の内容について調査の必要があるとして、「被相続人の取引証券会社等に対する反面調査」をなし、その「調査結果を取りまとめ」して、それを、そのまま本件修正申告書(乙第六号証)に記入したものであるから、それは、修正申告書の内容記載の当否について直接の決め手となる文書に外ならないものである。

いうまでもなく、こうした税務職員の質問検査権の行使は、法律の根拠に基づいて行われるべきものであり、本件では、相続税法六〇条(所得税法二三四条と同じ趣旨、目的、内容)によってなされたものであるから、所得税法二三四条について、「本条の質問調査は、税務署長の決定もしくは更正のために必要な資料を収集して租税の公平確実な賦課徴収を図ることを目的とする行政行為」(最判、昭和六一・三・二〇、税務訴訟資料一五一・二二八)とされているものと同じである。

(二) また、教科書検定に関し、最高裁判所によって持された東京高等裁判所昭和四四年一〇月一五日の二つの決定(判例時報五七三号二〇頁)において、文部省調査官が判定に先だって作成する各種文書は、単なる自己使用文書に止まるものではない旨、判示されていることを併せ考えても、本件文書もそれと同じ意味において、租税法律関係の生成の課程において、蒐集、作成された文書であって、単なる自己使用文書に止まるものではないことは明らか、というべきである。

(三) 又、磐田税務署のいわば幹部職員らも、甲第三号証(即時抗告人=原告の陳述書)のとおり、裁判で提出することを言明しているというのであるから、本件文書が、本件相続税の租税法律関係の形成過程での重要な資料であって、単なる自己使用文書に止まるものではないことを自認していたということができるものである。

三、付言すれば、商人にとって、企業の合理的経営に必要なものとして、元来、自己使用のため発達してきた商業帳簿は、商法三五条により一般的な提出義務が課せられ、今や単なる自己使用文書でなくなっていることは明らかであるが、そのことと対比してみても、租税法律関係形成の為、税務職員が公務として蒐集、作成した調査資料は、少なくとも、教科書検定における文部省調査官の各種文書資料と同じ比重をもって、租税法律関係をめぐるベスト・エビデンスとして存在する文書資料、単なる自己使用文書に止まるものではない、というべきである。

四、以上のとおり、本件文書を「専ら自己使用目的」のものとした原決定は、誤っているから、取消されなければならない。

平成一〇年四月三〇日

即時抗告人(本案原告)代理人弁護士 森下文雄

同 石田享

東京高等裁判所 御中

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